かわらないもの
 制服 校舎 休み時間のざわめき
 楠の青葉 給食の献立
 まとまって歩く女の子 バラバラの男子
 男女の対立 心の揺れ
 僕がかけた生徒会室の暖簾
 ふるぼけたけれど残っていた 10年の時を越えて
 かわったもの
 生徒数が半分 クラスがふたつ C組が女子更衣室に
 体育館履きが上履きに ブルマがスパッツに
 職員室にはパソコンが溢れ
 隣の空き地はショッピングセンターに
 残っていた先生はお元気だったけれど
 記憶より老けていた 10年の時
 かわらないもの
 クラスの風景
 朝一番の男の子
 ギリギリセーフの男の子
 いつでも騒ぐ女の子
 体育で燃える男の子
 アイドル命の女の子
 男を言い負かす女の子
 人数は減ったのに 役者は変わらない
 あいつらと間違えそうな 不思議な風景
  
 かわらないもの
 バスケットコート 部活の専用Tシャツ
 ひさしぶりのドリブルは 驚くほど手に馴染む
 10年振りに引っ張り出したバスケットシューズは
 いつも履いていたように足に吸い付く
 ドリブルのうまい女の子 やわらかい動きに
 あの娘もそうだったと思い出す
 かわったもの 
 フリースローが入らない 3点シュートが届かない
 動かない体を気持ちが急かす
 違う顧問の見知らない練習
 あいつがいつも使っていた 新品でお気に入りのカラーボール
 薄汚れて籠の中で佇む
 体育館の入り口から 眺める校庭の景色は
 あの時と同じ風 同じ響き
 ドリブルの振動が 僕の鼓動と一致する
 なくなったもの
 あいつがいない あの娘もいない
 僕だけが一人 ここに戻ってきた
 そして戻らない10年の時
だけど…
 確かにここにあるもの
 あの日、あの時の、あの熱い想いは
 僕の鼓動になって 今も体の中を流れている
 一日一日を 無造作に 惜しみもなく
 振り返らずに生きたあの日々の…