海は、寒かった。当然と言えば当然だが…。本当は、真っ青な海を想像していたのだが、まあ曇り空なのは誰のせいでもないからしょうがない。ぼくは、さらさらの砂の上に座り込んだ。風が痛いほど強く吹いている。痛いのは、まきあげられた砂のせいでもあるのかもしれない。それ以上に、ただ冷たいということもあるのだろう。波の音と、風の音。ただそれだけが耳に痛い。
ふと気がつくと、涙が流れていた。冷えきった頬に、熱いものが感じられた。吹き付けられる風の痛みと、鳴り響く音の痛みと、なぜだかわからない心の痛み…。ぼくは、抱えたひざに頭をうずめて、ひたすら泣いた。まるで子供のように、ただひたすら…。
「どうしたの?」
唐突に、頭の上で声がした。顔を上げると、女の人がぼくを見つめていた。
「あ…、何でもないよ…」
何が何でもないのかわからなかったが、そういってぼくは涙を拭こうとした。その手を、その人が押さえる。
「別に拭かなくてもいいじゃない」
そう言って、その人は微笑んだ。まるで天使のように…。
「泣くことは、別に恥ずかしいことじゃないよ」
そう言ったその人の声と、ぼくの手を握るその人の手、そして何より、その笑顔が、ぼくを心の底から暖めてくれた。気がつくと、涙は止まっていた。
これが、彼女との出会いだった。ぼくのすべては、ここから始まったのかもしれない。