4・死ぬのは奴らだ

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 いつもは賑やかなパソコン部室。しかし、今月は違った。シ〜ンと静まり返っている。えみりは相変わらず英語の予習だ。紫緒はつまらなそうにすわっている。池田と佐藤、上岡とまりあがソファーにすわってひたすらゲームボーイをやっている。
 何故なら、11/21にポケットモンスター金銀が発売されたからである。当然倫子も買わされたのだが、今は詰まっていてちょっとやめている。かといって対戦ゲームをやろうにも皆揃ってポケモンだから、こうしてボ〜としているほかはないのである。
「倫子様、見てくださいですぅ!」
「うん、何?」
 まりあのGBCを覗く。パーティ画面なのだが、倫子は言葉に詰まる。
「…ビチュー6匹…」
 まりあは無垢な顔でこちらを見つめている。困り果てながら微笑み返すと、まりあはそれで納得したのか、プレイを再開する。
「倫子さんはポケモンはしないんですか?」
「う、うん…ちょっと詰まってて…」
「どこですか?」
「…ミカンが倒せなくて…」
 すると上岡の表情が一気に暗くなる。
「そうなんですよねえ〜〜。コイルって攻撃がなんにも聞かないんですもんねえ〜〜〜。僕なんか、最初のキャラをワニノコにして、ほとんどそれ一匹でやってたか、コイル倒せなくてねえ〜〜〜。何度やっても倒せなくてねえ…どうしようかねえ」
「…まさか先輩、そこでずっとやってるんですか?」
「ええ、そうですけど?」
「…焼けた塔でブーバーを捕まえればいいのではと…」
「……」
「か、上岡先輩?」
「あれぇ? どうしましたですかぁ、先輩?」
「ぶ、部長! 上岡先輩がGウィルスに犯されていますっ!」
「…今それどころじゃない」
 上岡にまったく構わない池田。佐藤とGBCをケーブルで繋げている。早速対戦しているようだ。二人はどんなポケモンを使っているのだろう。
「お二人は何を使ってるんです?」
「νとザンボット」
「ゴットマーズと真ゲッターだ」
「…は?」
 倫子は佐藤のGBCを覗く。次の瞬間、身を引いて頭を抱える。
「ポ、ポケモン金銀が発売されたと言うのに…こ、この二人はスパロボ・リンクバトラーで対戦している!?」
「いけ! フィンファンネル!!」
「なにおっ!? 切り払いじゃぁぁぁ!」
 驚愕する倫子をよそに熱戦を続ける二人。やがて二人ともGBCをしまって一息ついた。
「ふう…5勝5敗か。まあまあだな」
「つーか、お前いいかげんにキャラ変えろよ!? ザンボットとνガンダムばっか使いやがって…」
「他に使う気起きねえんだからしょうがないだろ?…ん、倫子。何をボケ〜としている? ポケモンはクリアしたのか?」
「い、いや、まだですけど…」
「だったらボサッとしている場合ではないだろうっ!」
「は、はい…って、なんで怒られるの?」
 倫子は渋々GBCを取り出した。ブーバーを育てないとコイルが倒せないのだが、育てるのが面倒くさいのである。すると、隣のまりあが奇声を上げる。
「あれぇ?」
「どうしたの?」
「なんか、変なポケモンが出たですぅ」
「…変な?」
「なんか、星がぴかっと光って…」
「星?…キャア!?」
 そう言って倫子がまりあのGBCを覗きこもうとすると池田に突き飛ばされた。反対側から佐藤もまりあのGBCを覗きこむ。
「おお!? これが色違いポケモンか!? 金色のケーシィか!?」
「くっそお…まだオレ様も見つけていないのに…」
「しかし、ケーシィは黒いまなざしを使わないと1ターンで逃げてしまうのだが…こいつ、ピチューしか持ってねえ…」
「ボールは?」
「…それもモンスターボールしか持ってないよ、こいつ」
「スーパーボールも持ってないのか?」
「まりあ、続きをやってもいいですかぁ?」
「バカ、ちょっと待て。モンスターボールを投げるんだ」
「ええ!? もったいないですぅ。まりあ、嫌ですぅ!」
「くぅぅぅ! 聞き分けの悪い! 貸せっ! オレにGBCを渡せっ!」
「いゃぁぁぁんっ!」
「こらこら、佐藤。慌てるな。ほら、まりあ。後でお菓子上げるからモンスターボール投げてくれる?」
「ほんとですかぁ! じゃあ…ポンですぅ!」
 画面上でモンスターボールが揺れる。カタン、カタン。この揺れが止まって、その後モンスターが出て来なければゲットである。揺れが止まった。そしてモンスターは出て来ない。池田と佐藤が飛びあがる。
「よっしゃ! 色違いゲットだ!」
「ガハハ!」
「あっ、電池切れですぅ。まあ、ケーシィだから別にいいですぅ」
「……」
「……」
「あ、部長様、お菓子くれますですかぁ?」
「に、西村先輩。今はちょっとそっとしておいた方が…」
 するとまりあはきっとした顔で倫子を睨む。まさかまりあにそんな顔をされるとは思っていなかったので慌ててしまう。
「そ、そんなお菓子で目くじら立てなくても…」
「まりあのことはまりあちゃんって呼ばなきゃ駄目ですぅ!」
「…は、はい…」
 やがて復帰した池田と佐藤はソファーにすわってお茶を飲む。すると佐藤が神妙な面持ちで池田に問う。
「ところで池田。オレは声を大にして言いたいことがあるのだが…」
「ん? なんだ?」
「ど〜〜〜して夏の海のシーンが無いんだぁぁぁ!?」
「…いや、叫ばれてもなあ…」
「夏と言えば海! 海といえば水着! ニュース番組だって海開きとか言って女のケツを映して視聴率を稼ぐのだぞ!っ? それがなんだ? 山内姉妹という絶好の被写体がありながら海のシーンがないとはど〜いうこっちゃ!」
「…ゲームと関係無いじゃん」
「たわけっ! 例え海とは関係無くても水着にするのが世の常世の情け! エヴァだって季節は全然関係無いのに、沖縄に修学旅行だとかいって水着にし、GS美神のお絹ちゃんなんか幽霊だから服を着替えられないはずなのに、海のシーンでは水着になっていたんだぞっ!? 貴様にはそんなこともわからないのかっ!?」
「…だからお前はお子ちゃまだと言っているのだ。この世界で一番愚かな生き物である男子中高生の一員めがっ!」
「なんだとッ!? テメエは水着はなくてもいいと言うのかっ!?」
 詰め寄る佐藤。それに対して、池田はしれっと答えた。
「どうせなら、水着より下着がいいわ、俺は」
「ぶ、部長!?」
 思わぬ答えに倫子が思わず声を出す。しかし、佐藤の方を見てきょとんとしてしまう。
「…あれ、どうしたんです、佐藤先輩?」
「…うっ」
 もんどりうって倒れる佐藤。事態のわからない倫子に池田が説明する。
「…想像して、後に果てたようだな」
「…不潔…」
「何をっ!? 青少年の健全たる証拠ではないかっ!?」
「ふ、復活しないでくださいって! きったない!」
「ああ〜、やっぱ池田はアダルトじゃのう。持つべきものは友だ。これからはそちらの切り替えていこう」
「…何がだ…」
「でもあれだのう、水着にしても下着にしても、やっぱ倫子は一番だのう」
「な、変なこと言わないでください…」
「そうか? 紫緒の方がいいと思うが?」
 池田の反問に、佐藤が繭を釣り上げる。
「はあ? 倫子の爆乳と、紫緒の洗濯板、どう比べろというのだ?」
 紫緒がドスを利かせて睨みつけるが、佐藤は意に介さない。
「フン、オレ様は真実を述べたまでだ」
「でも、こいつノーブラだぜ?」
「え?」
 またまた思わぬ言葉にきょとんとする倫子。紫緒が真っ赤になって池田の腕をつかむ。
「バ、バカ、何言ってんだよ!?」
「…うっ」
 再びもんどりうって床に沈む佐藤。悔しそうに床を叩く。
「うう、オレはまだまだお子ちゃまだあ…。経験豊富な池田にはかなわん…うう…」
「まあ、律子も捨てがたいがなあ…」
「律子…駄目だ、オレにはもう、想像がつかん…」
「いや、想像してくれなくていいです…」
「でもさ、あれだよな。あいつが勝負する時は、絶対にガーターベルトだと思わん?」
 池田のその言葉に佐藤が息を吹き返す。
「そう! 絶対にそう! しかも黒っ! いやあ、池田。最後の最後で意見があったぜ! やっぱオレらは親友だのう…」
「…そう言う話は、男二人きりでしろよな…」
 呆れ返っている紫緒。倫子はちょっと複雑そうな顔をして曖昧に相槌を打っていた。
「さて、いい汗をかいたところでゲームでもしようか…」
 N64を取り出す佐藤。池田がコントローラーを取り出した。
「倫子、やるか?」
「は、はい。…何にしますか?」
「…そろそろ倫子にもあれをやらせるか?」
 池田の言葉に、佐藤が首を傾げる。
「う〜ん…まあ、いいんじゃねえの? 揉まれるのも大事なことだ」
「何の話ですか?」
「胸の話」
「……」
「……」
「死ね、トレヴェルヤン!」
 池田の一撃に撃たれた佐藤が三度床に崩れる。そして池田が棚からカートリッジを取り出した。
「倫子、今までのこの部活での試練はお遊びに過ぎん。遂にお前の本当の実力を見せる時が来たのだ!」
「は、はい…」
「N64…いや、ゲーム史上最高の対戦ゲーム、ゴールデンアイ007だっ!」
「ゴ、ゴールデンアイ?」
「どうかしたか?」
「…聞いたことないです」
「たわけがっ! 2000年3月現在で728万本売れているのだぞっ!?」
「この小説の時間軸は99年11月なのに!? じゃなくて700万本!? ていうか、ロクヨンってそんなに普及していましたっけ?」
「日本では10万本しか売れておらん」
「…それって、海外じゃゼルダよりも売れている?」
「発売から2年経っても100万本売れたそうだ」
「…FFは最初の一ヶ月以降、ほとんど売れないのに…」
「さて、では早速ゴールデンアイで対戦だっ!」
 池田・佐藤・上岡・倫子の4人対戦である。まずはキャラ選びだ。
「…つーか池田。毎回ジョーズを使うのはやめてくれ」
「だってジェームス・ボンドがロジャー・ムーアじゃねえんだもん」
「ばかもんっ! ショーン・コネリーに決まっている!」
 佐藤はヘリ操縦員というもっと訳のわからないキャラを選んだ。上岡はボリスだ。どんなキャラだかは知らないが、見た目からしてまた上岡が間違っていると言うのは感じた。倫子はヒロインらしきナターリアを選ぶ。
 ゲームが始まる。ステージは図書館。と言う割には本棚は無いが、そんな感じの部屋ではある。
「近くの武器を拾って構える。レーダーを見ながら敵を探す。今のモードは5分間マッチだ。倒した数-やられた数がポイントになるぞ」
「は、はいっ…」
 しばらく歩いて上岡のキャラと正面から向かいあう。柱に隠れながらマシンガンを撃つ。黄色キーの横滑りを使いながら、柱が均等に並ぶ小部屋で打ち合う。
「けっ、結構熱いじゃないの…」
 弾をくらってHPが減る。しかし、相手もつらいはずだ。
「ギャハハ…死ねェ! 死ねェ!」
 そこに佐藤が乱入してくる。隠れるようなことはせず、マシンガンを乱射している。
「な、なによ、もうっ!」
 その場から逃げ出す倫子。階段を見つけて二階に逃げ込む。
「随分広いわね…あっ!?」
 背の高い池田のキャラがやってきた。一直線にまっすぐ走ってる。
「くっ!」
 弾をバラマキながら逃げるが、遠距離だと弾道がずれるので意外と当たらない。通路に入って敵をまいた。…つもりだった。
「キャッ!?」
 進行方向から池田が現れる。慌てて銃を乱射するが…次の瞬間、倫子は目を丸くする。
「き、消えたっ!?」
その間もダメージを食らい続け、倫子のキャラは死んでしまう。
「な、なんなんなの、今の…」
「…お前、池田のキャラがしゃがんだだけじゃねえか?」
「しゃがむ?」
「目の前でしゃがまれると見えなくなるんだよ。まあ、一歩下がれば見えるようになるけど」
 上岡と佐藤も二階に上がってきた。大広間で銃撃戦になる。佐藤のキャラを撃ち殺した。
「よし、次は上岡先輩も…」
「そうは行きませんよっ! うっ!?」
「な、何!?」
 突然上岡のキャラのいる辺りが大爆風に包まれる。当然即死だ。そしてヒューンと音が響く。
「部長が二階からロケットランチャーを連射しているっ!?」
 逃げ惑うが結局爆殺される。悔しさの余り歯軋りをする倫子。
「キィ〜〜〜! 部長はどこ!?」
「あ、今オレが殺しちゃった」
「なんですって!?」
 佐藤の言葉に倫子が切れる。佐藤が慌てて取り繕った。
「でも、復活しだばっかりだと武器持ってないから嬲り殺せるぜ?」
「それを早く言って!」
 興奮していて先輩に向かって怒鳴りつけるが倫子は気付かない。走り回って池田を探す。運良くすぐ見つけた。やはり武器を持っていないので逃げていく。
「待ちなさいっ!」
 通路を曲がる。しかし、そこに池田が待ち構えていた。
「えっ!?」
 そしてなんと、池田は素手のままチョップで攻撃してくる。くるくる倫子のキャラの周りで回転しているので銃で狙いを定められない。
「ともかく距離を保って…」
 倫子が後ろに下がる。すると程よく距離が開いたところで、池田がマシンガンを構えた。
「ええっ!?」
「死ね」
 マシンガンに蜂の巣にされて倫子のキャラは撃ち殺される。倫子が叫んだ。
「き、きったないわ…」
「勝負の世界で泣き言を言うな」
 相変わらず真剣にゲームをしている時の池田は無口だ。それがますます悔しさを増幅させる。しかし結局、倫子はマイナスのポイントで堂々の最下位である。
「う〜む、まだまだボンドガールへの道は遠いいぞ、倫子?」
「やっぱあれよ、少しは律子みたいにセクシーさを身につけないとなあ。ただ胸がでかくて明るいだけじゃ日本でしか通用しないわい」
「関係ないでしょっ! もう一戦よ!」
 再戦の部隊は遺跡となった。しかし、倫子はステージに入って絶句する。
「な、何、この金ぴかの舞台は…遺跡?」
「エゲレス人の考えることは倭国の人間には理解出来ませんから…」
 マシンガンを持ってうろつく倫子。しかし、このステージは上下左右に入り組んでいるのでなかなか相手が見つからない。
「もう、どこにいるのよ…キャア!?」
 突然撃たれた。くるっと一回転するが敵の姿は見当たらない。
「だ、誰がどこからっ!?」
 そのまま撃ち殺された。すると佐藤がガッツポーズを取る。
「よっしゃ。狙撃成功!」
「そ、狙撃?」
「そうよ、スナイパーライフルは遠距離から狙撃できるのだ! これからはゴルゴ佐藤と呼んでくれ。ガハハ!」
「佐藤君。このステージで狙撃できるとこは限られてるんだから、居場所を教えていいんですか?」
「ぬはは。上岡。言われるまでもなく退散するって…何ぃ!?」
 佐藤の先には池田のキャラが立っていた。沈黙して向かい合う二人。
「貴様…今は二人とも体力満タン。撃ち合えば相打ちだぞ?」
 すると池田はすっと後ろに下がっていく。佐藤が一息ついた。
「なんだ、今日は物分りがいいなあ…な、なにぃ!?」
 絶叫した後、わなわなと震えている佐藤。きょとんとしながら、復活した倫子はアイテムを集めていた。
「えっと、確かここに防弾チョッキが…あ、あった」
 それを取ろうとした瞬間、倫子のキャラは爆風に巻き込まれて即死する。ポカンとする倫子。
「な、何?」
「…モーションセンサー爆弾ですよ。スマブラにもあったでしょ?」
「…ということはこっちが元ネタ?」
「はい。それで、佐藤君が動けないのは、出口に爆弾を大量に撒かれてしまったからですよ」
「…極悪だわ、というか非道だわ…」
「池田君の爆弾設置テクはなかなか素晴らしいですからねえ。黙視できないところに張りつけるんですよ」
「黙視できない?」
「そう、例えばこういう坂の場合、下から張りつけたりとか…」
 ドカンと爆発して上岡のキャラが死ぬ。
「…ね?」
「…いや、そんな涙目で見られても…」
 結局倫子はぼろくそに負けて一度も勝てずにその日は終わる。そしてスマブラの時と同じく…その日の帰り、倫子はゴールデンアイを買って帰った。

 律子が部活に顔を出すと、妹や池田らがゲームをしている。
「佐藤先輩! 追い詰めましたよ?」
「く、くそ〜、こうなればっ!」
 佐藤のキャラがロケットランチャーを構える。小部屋の端に追い詰められて、二人の距離はほとんどない。
「ええ!?」
「死ねやっ!」
 ロケットランチャーが放たれる。当然爆風は二人を巻き込んでお互い即死した。
「ちょっと、何すんですか!?」
「ガハハ…お前は殺されてマイナス1ポイント、オレは殺し殺されてプラマイ0だ!」
「なによ、このチキン野郎っ!」
「力こそ正義だっ!」
 律子はそのドタバタを、池田の横でソファーに寄りかかってみていたのだが、池田の視線に気がついてクスッと笑う。
「何よ、人の脚をじろじろと見て?」
「いや、ガーターベルトつけてんのかと…」
「プッ、学校につけてくるわけないでしょ?」
「…普段はつけてんのかい」
「ウフフ…知ってるくせに?」
「バカ言え…」
 なんかいい雰囲気だ。何故か倫子は腹が立つ。
「部長、覚悟っ!」
 池田の背後に回ってピストルを乱射する。しかし、池田は落ち着き払って対処する。
「フン…」
 ナイフを投げる。倫子のキャラの顔面にヒットしてたちまちHPが半分減る。倫子がひるんだ隙に池田はとっとと逃げていた。
「くぅ〜〜〜! そんなへなちょろ武器で、子供だと思ってバカにしてぇ!」
 現実も含めて、それがなんとなく悔しい倫子であった。 


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2000.6.19