5・戦場のメリークリスマス

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「…不安だわ」
 部室から外を眺めながら倫子がつぶやく。きょとんとしながらえみりが聞く。
「どうしたの、倫子ちゃん?」
「この作家は夏休みも文化祭も書かなかった癖に今日はクリスマス・イブ…嫌な予感しかしないわ…」
「部活のメンバーでパーティとか、そのぐらいじゃないの?」
「…そのぐらいで済むとは思えないのだけど…」
 振り返るとえみりは荷物をまとめている。倫子は目を丸くする。
「ど、どうしたの?」
「どうしたのって…帰るのよ。今日は両親と食事に行くの」
「…部長から召集かかってないの?」
「え? 別にかかってないけど…」
 少ししてえみりは帰宅する。まりあも親と食事に行くといってすぐに帰ってしまっていた。今部室には倫子しかいない。
「うん? ちょっと待って…」
 ソファーに戻っていた倫子がパソコンルームの方を見る。そこで黙々と作業をしている石沢…。
「…もしかして、話し掛けるチャンス?」
 恐る恐る近寄っていく倫子。すると部室の入り口がガチャリと開いた。
「あら、せっかく来たのに誰もいないのね?」
「あ、姉さん? 珍しい…」
「あら、やだわ。人のことを幽霊部員みたいに言って。毎日学校が終わるまでいないだけで、一日一回は顔を出してるじゃないの?」
「まあそうだけど…でも、今日は彼氏と出掛けるんじゃないの?」
「今日は終業式だから半日じゃない? まだ二時過ぎだし、こんな昼間からラブホ行ってもねえ…」
「は、はあ…」
「ま、適当に時間を潰して…」
 ソファーにすわる律子。ふと棚の上に置いてあったLDを手に取った。
「あら、確かこれ部長のLDね」
「うん、昨日ここで上映会やったのよ」
「去年もちょうど今頃見せさせられたわ。なかなかいい映画よね」
「え…今なんて?」
「…いい映画よねって言ったのよ。なんか変?」
「それ…アニメだけど…しかも『起動戦士ガンダム 逆襲のシャア』…」
「まあ、ロボットものって言うのかしら? こういうのは。それはよくわからないけど、なかなかいいと思ったわよ」
「私はただ、ゲームで見たことがあるメカやシーンばっかだなあと。まあ、こっちが元ネタなんだろうけど…ところでどこがよかったわけ?」
「監督さんが女のことよくわかってるなあって思って。アニメや漫画って基本的に男の欲望に基づいて作られてるからイマイチ見る気にならないけど、その分この映画はまあよかったわ。ま、なかなか良かったというだけで、他のガンダムも見ようって言うほど面白かったわけじゃないけど」
「…男の欲望?」
「だって、アニメとか漫画とかって、基本的にハーレムじゃない? 学校が舞台でも登場する女の子が大量に主人公が好きだとか。それって端的に言えばハーレムよ。男の欲望の最も足るものよね。逆に女の人が作るものは女の欲望が詰まってるけどね」
「は、はあ…私は、ベルセルクとか甲殻機動隊の方が…」
「何言ってんの、あなた。あんな男の性欲の塊みたいな作品が面白いだなんて、女の癖にどうかしてるわね」
「そ、そこまで言われなくても…大体、逆シャアのどこが女心をわかっているわけ?」
「ナナイ・ミゲルっいうシャアの愛人がいるでしょ?」
「いや、秘書ですけど…」
「あれのどこが秘書なのよ? どこからどう見ても愛人が男の仕事にしゃしゃり出てるだけじゃない? バンダイがうるさいから秘書ってしてるだけでしょ」
「は、はあ…」
「あの女が、『アムロは優しさが男の強さだと思っている男ですから』って言うじゃない? あそこなんか最高よね。おなか抱えて笑っちゃったわ」
「はぁ? …私には全然意味がわからないわ…」
「要するにあれ、『私は激しいセックスじゃないと物足りません』ってことじゃない?」
「……え?」
「ナナイって仕事のできる女でしょ? つまり自立しているから男に安らぎを求めなくてもいいのよ。だからセックスは激しく欲望を満たしてほしいから、アムロみたいに挿れた後に必ず『大丈夫?』って聞くような優しいセックスをするような男じゃ物足りないってことじゃない」
「は、はあ…」
「でも、アムロの側にいたチェーンは男に寄生して生きる女の典型だから、アムロみたいな男のほうがいいわけよね。女は大体その二種類にわけられるけど、男の作るものには、男に寄生する女しか出てこないものね。男がいなければ女は生活できないって、男の傲慢の現れよね、そういうの」
「…そ、そうなのかしら…」
「もっと良かったのがあのララァとかいう黒い女の子! あれって前作に出てきた女の子みたいだけど、あれって要するに浮舟よね」
「う、浮舟?」
「何よ、学が無いわね。源氏物語の宇治十帖の浮舟じゃない? と言っても、私も「あききゆめみし」を読んだ口だから大きなことは言えないけどね」
「そ、そういわれてみれば、そうかもしんないけど…」
「源氏物語は女の作品でしょ? 要するにあれこそが女の欲望なのよね。二人の男に同時に愛されたい! ていうね。不倫が正しい愛だとするのは女の作品だけじゃない。男の作品は『間違いだった』ってなるものね、不倫は。不倫こそ女の欲望よ。ハーレムと不倫。相反する思想よね。それがあの作品には両方入っているんだもの。これを素晴らしいと言わずしてどうするのよ?」
「り、両方入ってる?」
「シャアって男は、出来る女を側にはべらせて、その上ロリコンまで実践している。男の性欲の塊よね。大体あんなマスクを被るのはサドの証拠なのよ。それで浮舟。激しいセックスをする男が優しいセックスをする男に女を取られてしまって。素晴らしいことこの上ないわ」
「…ガ、ガンダムってそういう作品だと?」
「部長に言ったら、「ガンダムが登場して以来、その手法はほぼ全てが真似されているけど、ララァだけは敵の女と主人公の男が恋におちるという表面的なことだけが真似されて、シャアに当たる人間が出てくることは無い。それは男には浮舟が理解できないからだろうな」って言っていたわよ」
「た、確かにそういわれてみれば、敵と恋をするというのはほとんど文法の基本みたいになってるけど…それが三角関係になることは、確かに…無いような…」
「ま、逆シャアはドロドロしているけど、さわやかな作品で言えば「カリオストロの城」はいいわよね。あれも男よがりだけど、理想が詰まってて見ててかわいいもの」
「私もあれは好きだけど…かわいいの?」
「だってあなた、「オジサマ」よ、「オジサマ」! 監督が、自分もそう呼ばれてみたいっていうね。ほんとかわいいわ。そういう作品は見てても微笑ましいわよね」
「…なんか、頭が痛くなってきたような…」
「さてと、無駄な時間だったわ。ぐだぐだ理論を述べるより、愛すればこその人間よね。ばぁ〜い」
 律子は旋風のように去っていった。再び一人になる倫子。
「いや、一人じゃないわ…」
 そう言って振り返る。しかし思い直してソファーにすわりなおした。
「…チャンネル変えられるからやめておこ…」
「ガハハハッ! オレ様が来てやったぞ! …あり?」
 佐藤が威勢良く入ってくるが倫子しかいなくて拍子抜けしたようだ。しばらく無言で見つめあう。
「…惚れるなよ」
 そう言い残すと佐藤はドアを閉める。
「な、なんなのかしら…」
 それからしばらくすると上岡が入ってきた。周りをきょろきょろと見回す。
「あれ、珍しいですね。これだけしかいないなんて…グエッ!?」
 蛙が潰れたような声を出して上岡が扉に弾き飛ばされた。
「ガハハハッ! オレ様が来てやったぞ!」
「ちょっと、ひどいですよ、佐藤君?」
「なんだとぉ? テメエがオレ様の邪魔をしたんじゃねえか? あん?」
「そ、そんな…」
 上岡にあることないこと振り掛ける佐藤。それを見ながら倫子がつぶやいた。
「…イジメだ…」
「まあいい。今日はお前みたいな下っ端を相手にしている場合じゃないんだ。倫子。出撃だっ!」
「出撃? どこに行くんですか?」
「馬鹿者、男が出掛けると言ったら戦場に決まっている! 大体なんだその格好は? セーラ服は学校とセーラームーンとベットの上でのみ着用を許されるのだっ! とっとと着替えろ!」
「な、何にですか?」
「これだ」
 そう言って佐藤は紙袋を渡す。倫子もどこかつれていかれるのは覚悟していたのでそれを受け取った。
「じゃあ着替えてくるので少し待っててください…」
「馬鹿者。時間が無いのだ。ここて着替えろ」
「…ハ?」
「貴様、上官に口答えが許されると思っているのか!? 歯を食いしばれ! 修正してやるっ!」
「ちょっと佐藤君。そうやってセクハラしてるとまた池田君に不意討ちされますよ?」
「おおっと、そうだった、そうだった。毎度毎度同じ展開だと、日本じゃマンネリだと言われてバッシングされるからな。ここは先手を打つことにしよう」
 そう言って扉を押さえる佐藤。しばらくの沈黙。倫子が口を開いた。
「…部長が来るまでそうしているんですか?」
「うるさいっ! 男の意地だ」
 その瞬間ノブががちゃりと回る。佐藤は必死の形相で扉を押さえつける。少し開いては再び閉まるつばぜり合い。
「こら、上岡。テメエも後ろから押せっ!」
「そんなことしたら池田君に怒られます…」
「なんだとテメエ! この前アダルトビデオ貸してやったのうちの女部員にいいふらすぞっ!?」
「あわわ…それだけは御勘弁を…」
 いや、もう私に聞こえているのだが。上岡は佐藤の尻を押し、扉はまったく開かなくなる。
「だっはっは、今回はオレ様の勝ちだっ! あり?」
 扉が開いて佐藤と上岡は前に倒れこむ。二人の背中を池田が踏みつけながら部室に入ってくる。
「こら、テメエッ! なんで内向きの扉が外向きに開くんだよ!?」
「愚か者め、情熱さえあれば地平線まで三歩で行けるのがアニメなのだ。扉の開く向きを変えることぐらい、造作もないことよ」
 池田は腕時計を見る。ぽりぽりと頭を掻いた。
「ふむ、そろそろ時間だな。それでは行くか」
「えっと、どこにですか?」
「そこの裏山だよ」
 そういうことではなくて何をしにいくのか聞きたかったのだが、池田がさっさと歩き出したので倫子も渋々と後ろをついていくことになった。
 
 私立山城学園は千葉駅の先、市原の山の中にある。ど〜んと敷地を買ったので学校自体も広いのだが、周りにもいろいろとある。この山も裏山と言う割には地図にも載るようなきちんとした山であるが、山城財閥が買い取ってしまい学生の為に(体力訓練、若しくは学術研究など)使われている。パソコン部の面々はそのふもとに来ていた。
「こんなとこに来て、何をするんですか?」
「…何するって…知らないのか?」
「だって、聞いてませんもん…」
「そうだっけか。まあいい。実は…ムッ!?」
「キャア! ちょ、ちょっと部長!?」
 その瞬間倫子は池田に押し倒される。顔を真っ赤にする倫子であるが、次の瞬間目を丸くする。池田の立っていたあたりに火線が閃いたからである。佐藤と上岡も地面に伏せている。
「くそっ、先制攻撃とは礼儀を知らん奴等めっ!」
「取り合えず引けっ!」
 池田は立ち上がると倫子の手を引いて走り出す。銃弾の飛び交う中、近くの木の幹まで走りこんだ。
「ぶ、部長!? これはどういう…」
「敵を目の前にしてうろたえるなっ! これは訓練ではないっ!」
「いや、だから私には状況自体が…」
『フハハハ! パソコン部の諸君、御機嫌よう』
 木の上からマイクを手にした男が現れた。迷彩のミリタリースーツで、右手に機関銃らしきものを持っている。彼の登場にあわせて同じような格好の人たちが十人ほど、草むらなどから
姿を現した。
『このミリタリー部、二年続けて素人ごときに敗れ去った恥辱は、貴様等を地獄に叩き落しても晴れるものではない。しかしこの山中正一、ミリタリー部の汚辱を注ぐためにも貴様等を叩
き潰すっ!』
「黙れ小悪党めがっ!」
 池田はグレネードランチャーを取り出して構える。どこからそんなものを取り出したのかと倫子が問い詰めようとした瞬間、池田は引き金を引く。ばこ〜ん。
「な、何? 弾が顔面に直撃したと言うのに、この情けない効果音は?」
 よくよく池田の銃を見てみると装填されているのはバレーボールのようだった。球の直撃を受けて木の上から落下した山中が藪の中から立ち上がる。
「ええいっ、よくもやったな? 一時間後に開戦だっ! 総員、退避っ!」
 ミリタリー部の面々は山の中へと消えていく。池田の周りに部員が集まる。
「まったく、あの馬鹿たれも懲りん奴だ。池田、今年こそぐうの音も出ないほどこてんぱんにしてやるぞっ!」
「うむ、所詮庶民は英雄には勝てないということを思い知らせてやらんとな」
「あ、あの…」
 倫子の言葉に一同が振り返る。
「ミリタリーをやるのはわかったんですが…こっちの人数、これだけなんですか?」
 あちらは二桁はいた。それに対しこちらは素人の自分を入れて四人である。
「紫緒がもうすぐ来るはずだ。もっと人数増やしたいのか?」
「ま、まあそうですけど…」
「そうか。あんまり人数が多いと混乱すると思ったから出すのはやめようかと思ったのだが、倫子がそういうのなら仕方あるまい」
「いや、そういう言われ方をしても…」
 しばらくして紫緒が合流する。相変わらず不機嫌そうだ。
「しかし、ミリタリーやるのに全員学生服なんですか…」
「馬鹿者。いちいち服を替えていたらアニメーターが逃げ出すだろうが」
「…いや、小説なんですけど…」
 五人で山を登っていく。倫子はふと疑問を口にした。
「この山って、勝手にこんなことしていいんですか?」
「勝手とは失礼な。ちゃんと学校から借りている」
「…貸してくれるんですか?」
「体育館やテニスコートを借りるのと同じようにこの山も借りれるのだ。無論、一日一時間だから、いろんなところから名義を借りて一日貸切にしているがな」
 やがて中腹にバリケードが築かれている。こちらの姿を認めると激しく弾を打ってくる。池田は地面に伏せたまま後ろを振り向く。
「俺が突撃するから援護を頼む。紫緒、行くぞ!」
「…あいよ」
 さすが部長は勇気があるなあと倫子が見ていると、彼は武器を取り出した。きょとんとする倫子。
「…竹刀?」
 そして紫緒が取り出したのも竹刀だった。そして池田が走り出す。その背後をぴったりと紫緒もついていく。
「ええっ!? 竹刀で突撃っ!?」
「倫子、オレらも行くぞっ!」
 佐藤はAK47を持って正面突破する。ばらばらと弾をバラ撒きながらの突撃。倫子と上岡もその背に隠れるようにしながら入り口に走る。
「上岡、扉を爆破しろっ!」
「了解っ!」
 手榴弾を投げて扉を破壊する。それを蹴破って中に突入する。
「よし、三方に別れて各個殲滅っ!」
 佐藤と上岡が散っていく。ぽつんと残された倫子。はっとして頭を抱える。
「ええっ!? 私、素手なのにっ!?」
 おろおろと辺りを見回していると今突破してきた入り口からミリタリー兵が入ってくる。丸腰のセーラ服に、相手もきょとんとした顔でしばらく見つめあう。やがてはっとして銃をこちらに向ける。慌てて物影に転がる倫子。その場で頭を抱えてうずくまる。跳弾が部屋をこだまする。
「こ、殺される〜〜〜っ!?」
「ぐあっ!?」
 突如として男性の悲鳴。恐る恐る顔を出すと、後ろから首をつかまれて苦しそうにもがいている。
「ハッ!」
 男はそのまま引きずりまわされるようにして壁に顔面から叩きつけられて力無く崩れ落ちていく。バンダナを頭に巻いてジージャン・ジーンズのその男は振り返って倫子に手を上げて挨拶をする。
「よっ! 大丈夫か?」
「え、ええ、まあ。ところであなたは…」
「竹内宏だ。ま、池田の奴のダチってとこかな…」
 カッコと言動からすると池田の知り合いの割にはまともな雰囲気だ。しかしガタイはかなりごつい。身長も180の後半はありそうだ。
「ええっと、池田の奴は…むっ!?」
「どわ〜〜〜っ!?」
 佐藤と上岡が敵を引きつれながら逃げてきた。竹内の目が光る。
「全員ブチのめしてやるぜっ!」
 追ってきた五人程の敵に向かって素手のまま突撃する。殴り、蹴り、背負い投げで床に頭から落とす。ラリアットでふっとばし、最後の相手には膝蹴りを入れてかがませるとその場でパワーボム。あっというまに全員を叩きのめした。
「くそっ…」
 よろよろと立ち上がった一人の兵の頭をつかむと、顔面から壁に叩きつける。竹内はにこやかな顔で爽快な汗を手でぬぐう。
「ふう…合法的に人を潰せるのは気持ちいいなあ…」
 目の前で繰り広げられた凄惨な光景に呆然とする倫子。
「あ、あの人は一体何者?」
「僕たちと同学年で、柔道部のエースの人ですよ」
「おうおう、相変わらず”破壊王”は健在だのう…」
「は、破壊王?」
「昔は警察に何度もお世話になったそうだが、柔道に出会ってからは合法的に人を叩き潰せるといってすっかり更正してしまったナイスガイだよ」
「…なんでそんな人と部長が知り合いなんですか?」
「さあ、よくは知りませんけど…なんでも「戦ううちに友情が芽生えた」とか言ってましたけど…」
「ゆ、友情!? こんなに強い人と戦ううちに友情!? …それって部長の方が怖いような…」
 四人はバリケードから外に出る。いくつもの死体?が地面に散乱する中、池田と紫緒が立っている。
「よう、竹内。遅かったじゃないか?」
「あん? 約束の時間に来たらもういなかった癖に何言ってんだ?」
「約束の30分前に来るのが男の礼儀だ」
「だったら時間までいろよ。まったく、相変わらず自分勝手な奴だ…」
 そのまま口論しながら山の頂上を目指す。そそり立つ砦。パソコン部の影を見つけると一斉に乱射してくる。
「おいおい池田。これはちょっときついんじゃないか?」
「うむ…誰か囮にならないと無理かな…よしっ、こういう仕事は上岡がやると決まっているっ!」
「ええっ!? なんで僕ですか!?」
「うるさい。雑魚は雑魚らしく散れっ! つべこべ言わずに取り敢えず死んでこいっ!」
「アンビリーバブル…」
 上岡はヘルメットの緒を締める。マシンガンを持つと砦めがけて突進した。
「のおおおおおおっ!?」
 奇声を上げながらひたすら走る上岡。やがて火線が集中してあわれ上岡は黒焦げとなって地に倒れた。
「か、上岡先輩っ!? …あれっ?」
 隣を見ると池田がいない。前を見ると竹刀をかざして闇の中を走っている。砦の壁に辿り着くと…蹴り壊した。池田が中に侵入すると…悲鳴が聞こえてくる。
「うーむ…さすがジェノサイド・トミーの異名を持つだけはある…」
「ええいっ! まだだ、まだやられてはいないっ!」
 山中はそう叫びながら砦を捨てて広場に出てくる。背中にボンベを背負っていた。
「熱く熱くて熱くて死ぬぜぇぇぇぇぇ!?」
 なんと火炎放射器を持ち出して辺り一面を焼き始めた。パソコン部の面々はおろかミリタリー部員も逃げ惑う。五人は砦の残骸に身を隠す。
「あの、部長…山が燃えてますけど…」
「うむ、東方が赤く燃えているのう」
「いや、そんな呑気なことを言っている場合では…」
「ああ、そうか!」
 池田がぽんと手を叩く。全員が彼の言葉を待った。
「反対側から降りていけば問題あるまい。ささ、行くぞ」
「池田〜! 俺はまだ暴れ足りねえぞっ!?」
「ならボーリングでも行くか…」
「グヒヒ…酒じゃ、酒じゃあ〜」
 男三人が並んで降りていき、紫緒も池田の後ろをついていく。倫子が手を伸ばした。
「あの…山は? 上岡先輩は?」
 全員どんどん下っていく。倫子はゆっくりと振りかえった。
「ハッハッハ…世界の全てを浄化してくれるわっ!」
「…ま、待って〜〜!」
 倫子は斜面を転げるようにみんなの方に走り出した。山の頂が夕闇の中に煌煌と燃えていた。

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2000.9.14