14・西部戦線異常無し
<目次> <用語解説> <配役紹介> <前の回> <次の回>
『PS2に遅れること1年、遂に任天堂の新型ゲーム機、ゲームキューブが遂に今日、発売となりました。都内の大型量販店には朝早くから行列が出来ています。12月にはマイクロソフトのXboxも発売が予定されており、ゲーム機戦争が一気に過熱することが予想されます…』
朝のニュースをパンをかじりながら、ぼ〜と眺める倫子。頭の中で貯金とこれからの収支を計算する。ふうっと溜息を吐いた。
「結局九月ですんなり発売されたけど…なんかすぐ買うって気持ちでもないのよね…しかもどうぶつの森、前回でN64の買ったばかりなのにキューブでも12月に出るとか言うし。欲しいは欲しいけどなあ…まあ、部室に行けばあるだろうけどさ…」
朝連に顔を出すために早めに家を出る。電車に揺られ、学バスに乗って八時前に学校に着く。
「おはようございます…あれ?」
「…何だ、オレ様の顔になんかついてるか?」
「…佐藤先輩、なんでここにいるんですか?」
「部室だからじゃねえか。何言ってるんだ、オメエは?」
「ゲームキューブ買いに秋葉原行ってるかと思いましたけど?」
「ルイージマンション、ウェーブレース、スーパーモンキーボール。オレ様に何を買えと言うのだ?」
「まあ、確かにそうですけどね…」
「任天堂もギャルゲーの一つや二つ用意すれば、初日に50万台ぐらいハードが売れるのになあ…」
「いや、もうギャルゲーもそんなに売れないと思いますけど…ときメモ3も5万本だし」
「何をっ!! あんなトゥーンレンダリングなぞギャルゲーとして認めんっ!! 例えゲームハードが無くなろうと、ギャルゲーは不滅なのだっっっ!! ドリームキャストを見ろ! ハードの発売中止が決まったのに、未だにギャルゲーの新作発表があるのだぞ!! 地球が滅びようと、ゴキブリとギャルゲーは死なんのだっっ!!」
「まあ…少なくとも、佐藤先輩はギャルゲーがある限りは死なない気もしますが…」
「ダッハッハッ…ギャルゲーがあるところ、この佐藤豊はどこまでも行こう! それが例え任天堂ハードであろうとも!!」
「おい、佐藤」
力説するその肩を、後ろから池田が叩く。演説を邪魔されて、睨みつける佐藤。池田は真面目な顔で直視する。息を飲む倫子。一触即発。そして池田がボソリと言った。
「ラブひなアドバンスは買ったのか?」
「あべしっ!?」
見えない力に殴られて、佐藤が吹き飛ぶ。床に這いつくばってピクピクと、息絶える前の痙攣を起こしていた。
「ああ…空が青い…」
「毎回毎回、よく死にますね…」
池田は自分のPC席にすわって作業を始める。池田も買った様子が無いので、倫子が聞く。
「部長はキューブは買ったんですか?」
「ああ、持ってるよ」
「ホントですか? ソフトは何買ったんですか?」
「フォトショップ」
「…はい?」
池田が何も言わないのでそのまま沈黙が部室を包む。そこに律子が入ってきた。
「こんにちわ〜」
「あ、姉さん。珍しい…」
「もう、倫子ったら、私が部室で登場するたびに珍しいっていうの、よしてよね。設定的には週に2.3回は顔を出してるんだから…」
「いやでも、3話振りに登場だし…」
「で、何? ぽ〜と突っ立ってどうかしたの?」
「いや、部長がキューブでフォトショップ買ったとかわけわからないこと言うから…まあ、姉さんに言ってもしょうがないけど…」
「G4がどうかしたの?」
「え?」
「だから、G4キューブがどうかしたのっかって言ったのよ」
「…ガンダム?」
「それはG3でしょう…って、私がガンダムのネタなんか知ってるわけないでしょう?」
ストレートヘアーをかきあげて怪しく微笑む律子。男ならこういう仕草でゾッと来るのかと思いつつも、倫子はちんぷんかんぷんだった。
「というか、本当に意味わからないんだけど…」
「こっちいらっしゃい」
そう言われて、律子と倫子はパソコン並びの一番奥に行く。律子が指差した。
「これよ」
「…何これ?」
「パワーマックG4キューブよ」
「キュ、キューブ!? た、確かに立方体だけど…」
「それで、これがアドビのフォトショップ。1本九万円」
「九万円!? ソフト1本で九万円!? キューブとPS2買ってもお釣りが来る…」
「まあ、これは学割だから3万円ぐらいだけど…」
「学割で5万も下がるってのが、また凄いわ…」
「まあ、アメリカの会社だから、そういうのはちゃんとしてるのよねえ…」
「はあ…ま、要するに部長もキューブ買ってないと…」
せっかくの新ハードなのに触れないのかとがっくりする倫子。すると池田がPCを打ちながら割り込んできた。
「だから持ってるって、それと同じ奴を」
「…え? 部長ってマッキントッシュ持ってるんですか?」
「MSXもPC9821もX68KもWINもMACも持ってるよ。MSXは2台でWINは…3台か」
「…なんでそんなに持ってるんですか?」
「お前だってプレステとN64持ってるじゃん」
「値段が違います、値段が!!」
ソファーにどっかりと座りながら、佐藤が首を左右に振った。
「こんな女も金も不自由してないような奴にそんな事言ったってしょうがねえって」
「…女はともかく、佐藤先輩だってお金には不自由してないじゃないですか?」
「何を! いくらお金があろうとも、愛がなければ意味がないのだ! つまりオレ様は永遠の愛のさすらい人なのさっ!」
「だから抱きつくなってぇの!!」
「グハッ!? カ、カウンターでSTOはよせ…」
「まったく、子息コースで入学したボンボンが…」
「はあ? オレ様は特別入学だぞ」
「と、特別入学!? な、なんのですか?」
「プログラミングだよ。面接の時、PCで打ち込みやらされたけどな。それで合格したよ」
第1回で書いたが、私立山城学園は全校生徒3600人。一般入試の他に、面接だけで入れる特別入学と言うのがある。簡単に言えば一芸入学だ。それによってスポーツや文科系で優秀な人間を集め、山城学園はありとあらゆるスポーツ、文科系で全国でも有数な強豪校になっている。
「…なんか、佐藤先輩で特別入学で入ったなんて、真面目に受験した自分が馬鹿になってきたわ…」
「あん? オメエ特別入学じゃないのか?」
「私がどうやったら特別入学出来るんですか?」
「巨乳で〜〜す!!って言って面接でジジイどもに色目使ったんじゃないの?」
「そんなわけないでしょうが!! いくらなんでもそこまでいい加減じゃないでしょ、この学校も…」
「でも、池田の奴は成績優秀、品行方正で入ったんだぜ?」
「マ、マジ!?」
「あ、私も学業優秀で特別入学よ」
「…部長とえみりが同じ理由で特別入学…そんな馬鹿な」
「そんなこと言ったら、紫緒が一番凄いのよ?」
「オ、オレの話はいいだろ…」
律子に振られて、馬鹿騒ぎの中ソファーでじっとしていた紫緒は、プイと横を向いてしまう。
「え? 神崎先輩って、特別入学なんですか?」
「あ、ああ…」
「なんのですか?」
「……」
「神崎先輩?」
「…剣道だよ」
「け、剣道!? それって剣道部入って全国大会目指すもんじゃないんですか? な、なんでパソコン部なんかいるんですか!?」
「べ、別にいいだろ…」
そう言ったきり、少し赤くなってうつむいてしまう。あまり突っ込むと後が怖い気もする。そこで池田が助け舟を出す。
「さて、話も一段落したし、今回ももう終わりだな…」
「…あの、前振りだけしかやっていない気がするのですが?」
「いいじゃねえか、もう充分長いし」
「だ〜か〜ら! 本番もちゃんとやりましょうって!」
「本番? いい響きだな、グヒヒ…」
「駄目だこりゃ…」
「ずちゃゃずちゃゃずちゃゃ!」
「ま、まりあ先輩!?」
いつのまにかそこにいた西村が、ソファーからぴょんと立ち上がって叫ぶ。呆然とする倫子。
「…ど、どうしたんですか?」
「部長様が、駄目だこりゃあって言ったらあ、ずちゃゃずちゃゃと言わなきゃ駄目だとおっしゃられたですぅ! これでよかったですかぁ?」
「…ドリフかよ…って、痛い! 何すんですか!?」
後ろを振りかえると佐藤が金ダライを持っていた。激怒する倫子にきょとんとする佐藤。
「いや、ドリフって言ったらタライが落ちないとマズイだろ?」
「今、おもいっきりぶん殴ったでしょうが!!」
「まったく、本当にお前はピイピイうるさいやっちゃのう…」
「…もう、やだ、この部活…」
気を取り直そうと言う、池田の珍しくまともな提案で、学校前のアーケード街のゲームセンターにやってきた。今はカプエス2と、連邦VSジオンが盛り上がっている。
「ダイレクトランニング!!」
「ああ! 割り込まれた!?」
倫子のロックが池田のブランカの前に散る。倫子はがっくりとうなだれた。
「ブランカのレシオ4は無理だって…」
負けっぱなしなので一端席から離れる。佐藤や上岡を探した。
「あ、ガンダムのところだ…」
「ダッハッハッ…当たらなければどうということはない!」
佐藤と上岡のチームが対戦台で連勝していた。既にモビルスーツは自由選択になっていた。佐藤はドズル・ザビでアッガイ、上岡はガルマでジムだった。
「相変わらず上岡先輩は間違ったキャラ選択なのね…」
佐藤のアッガイが敵陣に突っ込んで躍動する。上岡は逃げ回りながらビームスプレーガンをばら撒いている。そういう意味では良いコンビネーションだった。両方とも凄い強い機体ではないが、コストは200以下で、要するに4回死ねるのだ。二人は連邦のガンダム、ガンタンクのコンビを撃破する。
「…やってみるかな」
実は余りやっていないのだが、コインを投入する。アムロを選んでガンダムだ。
「何だ、倫子か。オレ様が勝ったら今晩は…グヒヒ」
「はいはい…」
ステージはジャブローになった。水中面なのでアッガイ相手はちょっとつらいか。ゲームが始まった。
「来たっ!」
佐藤のアッガイが突撃してくる。コストの高い自分狙いだ。格納庫の窪みの中に逃げる。ビームライフルをよけた佐藤と距離が詰まる。
「クッ…」
ビームサーベルに持ち換えるが当たらない。横からビームが当たる。が、盾なので余り減らない。横ステップで逃げる。迫る佐藤。ビームライフルを撃つ。
「よしっ…」
アッガイのパンチよりビームライフルが先に当たってアッガイは吹っ飛ぶ。仲間のコンピューターの陸戦型ジムが上岡にやられた。起き上がる佐藤から距離を取る。飛びあがる佐藤。復活した陸戦型ガンダムの方に寄っていく。
「コンピューター狙い!?」
2人のコンビネーションでみるみるCPの体力が減っていく。遠方からビームライフルを撃つ。上岡に当たってジムを撃沈させる。しかしアッガイの格闘コンビネーションが決まって陸戦型ガンダムはあっというまに沈んだ。
「やばっ! 私がやられたら負けっ!?」
体力は2/3。こちらはジムしか倒していない。アッガイとジムを一度ずつ倒しても相手の戦力ゲージはギリギリ残る。
「この体力であと三回撃破!? まずいわ…」
飛び上がって逃げながらビームライフルを撃つ。佐藤と、復活した上岡が同時に迫ってくる。佐藤にビームライフルが当たって撃沈させるが、それでもあと2回倒さねばなせない。上岡は一転して逃げる。
「こうなったら上岡先輩狙いよっ!」
後ろから追う。ビームライフルを乱射して一撃当てる。それだけでジムの体力は半分だ。止めを刺すべくビームサーベルに持ち替えて近寄る。
「あっ!?」
斜め後方からアッガイのビームが当たる。立ち上がったジムの2機で挟まれる。垂直に飛び上がった後、距離を取ろうと逃げるがジムのビームスプレーガンが当たってしまう。
「まずい、まずいわ!」
すると画面が切り替わる。乱入だ。横を見ると…池田がすわっていた。
「ぶ、部長!?」
「大してうまくも無いのに、よく1対2でやる気になるな、まったく」
助けに来てくれたのだが、相変わらず口が悪い。池田がキャラ選択を終え、お互いの状態が初期に戻されてゲームが再開される。
「部長は何を使うのかな…って、ギャンかよっ!?」
「何を、ギャンこそまさに男の機体っ!」
ギャンは強烈な接近攻撃を持ち、ビームサーベルはガンダムより強い。しかし、遠距離攻撃が何も無いのだ。それはこのゲームにおいて致命的な弱点と言っていい。それでも前作では3回死ねたので死なば諸共で突撃するのが強かったが、今回から2度死んだら負けになるので使う人はほとんどいなくなった。
「いいか、倫子。相手に1発ずつビームライフルを当てろ。後はなんとかする」
「なんとかするって言われても…」
ゲームが始まった。やっぱりというか、そうするしかないのだが池田のギャンは空を飛んで突っ込んでいく。それに応戦するアッガイ。ジムがその斜め後ろでビームをばら撒く。
「ジムを撃退しないと…」
ビームライフルがジムに当たる。少し間合いを詰めた。
「ええっ!?」
なんとギャンがジムに突撃する。アッガイは落ちていない。ギャンが三連打を決めるとジムは落ちた。しかしその後ろからアッガイがビームを浴びせる。
「こら、アッガイを倒さんか!!」
「そ、そんなこと言われたって〜!」
隣の席の池田が叫ぶ。ギャンはアッガイの相手はせずに復活したジムの方に飛んでいく。
「…なるほど、ギャンが一回攻撃してビームライフルを当てればそれで落ちるのね…」
やっと池田の言ったことを理解した。だったら最初からそう言ってくれればいいのだが、今更池田にそんなことを言っても始まらない。結局ギャンが一回落ちたが佐藤チームを見事に撃退した。その後も勝ち続けたが、見知らぬWガンダムチームに負けて席を立つ。
「コストが低い相手ならともかく、ギャンはやっぱり無謀なのでは…」
「アホなこと抜かすな。だからお前は甘チャンだと言っているのだ」
「もういいですよ…あれ?」
店員カウンターのお知らせに目が止まる。池田から離れて読みに行く。
「連邦VSジオンDX、タッグトーナメントのお知らせ…再来週の日曜か…参加料500円で…ゆ、優勝商品PS2!? こ、これは…」
ばっと振り返る。池田は自販機の横に立ってマッ缶を飲んでいた。小走りに近付いた。
「ぶ、部長。部長はガンダムのトーナメント出るんですか?」
「ああん? ああ、出るよ」
「部長と出ればPS2…じゃなかった、優勝の可能性が…あ、あの、私と一緒に出ませんか?」
精一杯の上目遣いで哀願する。真顔で自分を見る池田。
「…アホか、お前は?」
「…はっ?」
「アホかお前は、と言ったんだ」
「ななな、何がアホですか!? こっちはちゃんとお願いしてるのにっ!!」
「俺は、出るつもりだとか、出る予定があると言ったんじゃない。出る、と言ったんだ。つまりもうエントリーしてるんだよ」
「え?…誰と出るんですか?」
「うむ…お前よりはかわいい奴だな」
「ななななんですってぇぇぇ!?」
池田はマッ缶をゴミ箱に捨てると再びカプエスの方に向かっていく。一人で怒りを燃え上がらせる倫子。そこに佐藤がやってきた。
「どした、倫子?」
「…いえ、別に…」
「そういやまだガンダムエントリーしてねえな…上岡の奴は弱えから組みたくないし…どうすっかな」
「別にPS2なんか持ってるんでしょ?」
「まあ、確かにそうなんだよな。でもまあ、トーナメントに出ないのも癪だしなあ…というかPS2、一台しかくれないからな…」
「…てことは、パートナーにあげてしまうということですか?」
「なんだ、倫子? オレ様と組みたいのか?」
「嫌です、どうせ秘密特訓だ!とか言って変なことしようとするんでしょ?」
「…そう返されたら、コメディの意味がないじゃねえか…」
「私はもう、どうでもいいです、そう言うのは…ああ、やっぱこんな部活に入るんじゃなかった」
「甘ったれるなぁぁぁ! 憎しみこそパワーだっ! その憎しみをオーラ力に変えて戦うのだっ!」
拳を作って雄叫びを上げる佐藤。思わず倫子はたじろいだ。
「そ、そんなこと言われても…」
「いいのか!? どうせもらっても使いもせずに放置するような奴(池田)にPS2を渡しちまっていいのかっ!?」
「た、確かに家に放置しそうだわ…」
「後はお前の心一つだっ! オレ様と組むのかっ! 組まないのかっ!?」
「…ええ、私は悪魔に魂を売るわっ!! 部長に一泡噴かせましょう!」
手を差し出す倫子。がっちりと握り返す佐藤。
「よっっし、早速秘密特訓だ、グフフ」
「…お約束かよっ!」
「グハッ!?…カウンターでティルトスラムはよせ…」
三村ばりに突っ込んで、倫子は抱き着いてこようとした佐藤をゲーセンの堅い床に叩き付けた。
大会当日。倫子は佐藤と共にゲーセンにやってきた。
「確かお前、昔オレ様と出かけた時、ティファのコスプレ嫌がってなかったか? なんで今日はそんなカッコなんじゃ?」
「これはあくまでそれっぽいだけで、コスプレをしているわけじゃありませんよ。大体、白いタンクトップと黒のミニスカ履いてるだけじゃないですか。足はスニーカーだし…」
今はジージャンも羽織っている。じろじろと見ながら佐藤が言った。
「そういやお前、これって時の私服はいつもそれだなあ…」
「そうですね、自分の中では勝負服ってことにしてるんですよ」
「そのカッコなら夜の勝負服でもOKだな…グフ」
「…そういうアホなことは聞き飽きました…」
「何をっ!? タンクトップこそ男の浪漫!! めくった瞬間に胸が露になり、さらに他の服に比べて服を着たままでも生に近い感触が味わえ、さらに服を着せたままの直触りも可能と、まさに三拍子揃ったミラクルアイテムなのだっっ!」
「……無視しよ」
倫子はガンダムで、佐藤はそれにあわせてガンタンクというありきたりの最強コンビで挑む。倫子がガンダムで行きたかったので、何でも使える佐藤がそれに合わせた格好だ。ガンダム・ガンタンクが一度ずつやられてもギリギリコストが残ると言う組み合わせである。椅子にすわってジージャンを脱ぐとギャラリーから歓声が上がった。
「あれから2週間…特訓の成果を見せてあげるわっ!」
ステージはサイド3。相手は陸戦型ガンダムとシャアザクだった。
「三回撃破か…」
「シャアザクは三回死ねるから突っ込んでくるぞ? ともかくガンダムを一度殺るんだ!」
「了解っ!!」
試合開始と共にブーストをかけて突撃していく倫子のガンダム。シャアザクのマシンガンがパラパラと横から当たるが、ガンキャノンが遠距離砲撃で吹き飛ばした。陸戦型ガンダムに迫る。お互いステップでくるくると回り、攻撃が当たらない。そこにガンタンクの砲弾が当たって陸戦型ガンダムがよろける。
「今よっ!!」
前ステップで間合いを詰めるとビームサーベルで切りつける。背後からシャアザクが突撃してきて倫子に切りつけるが、ガンダムの攻撃が一瞬早く陸戦型ガンダムを沈める。倫子のガンダムもヒートホークの三連打を食らってダウンするが、盾のお掛けで体力は半分残っている。陸戦型が復活する前に、佐藤と2人がかりでシャアザクをいたぶって早くも二つ落とした。相手はガンダム目掛けて突撃してきたが、倫子は逃げ回りながらビームライフルを乱射し、射撃戦で陸戦型を沈めた。
「よしっ、初戦突破よっ!!」
ギャラリーの拍手に手をあげて答える。唯一女性で参加しているということもあってか人気爆発だった。
「さて、ゆっくり他の奴らの見学でもさせてもらうか」
「そうですね…そう言えば池田先輩、いなくないですか?」
「あいつは一回戦ラストって言ってたよ。あんまり他人に興味がない奴だからな…」
「…はあ」
白熱した試合が続く。相手を研究しようと食らいつくようにモニターを見つめる倫子。すると後ろから声をかけられた。
「倫子、こんにちわ」
「あれ、さくらじゃない。しかもこんな場所にそんな服で…」
紫の和服で、金髪のさくらが立っていた。自分と格好が逆のような感じもする。
「部長と一緒じゃないの?」
「そうでしたけど、倫子に挨拶しようと思って…」
「ふぅん…でも、空手部あるのに、応援になんか来てて平気なの?」
さくらは1年生ながら団体戦に選ばれる程の腕前だ。こんな日曜の昼間に休めるはずもない。するとさくらはうふふと笑った。
「私、応援じゃありませんよ」
「え?」
『さあ、いよいよ第1回戦最後の試合だっ! 連邦側は地元の小学生コンビ、山田君と佐藤君だっ! そして対するはなんとお兄さんと妹さんでの参戦、池田ブラザーズだっ!』
「ななな!? さくらが部長のパートナー!?」
さくらはゲームになど全く興味が無かったはずだ。倫子が驚愕している中、ゲームが始まる。ステージはニャーヤーク、池田は相変わらずギャンで、さくらはガンダムだった。
「な、なんて無茶苦茶な組み合わせ…」
小学生コンビは2人ともガンダムという極悪非道なチーム構成だった。しかし、それぞれ2回死んだら終わりと言う点ではどっちも変わりない。そんな中ギャンを使うのはただ無謀としか言いようがなかった。そして試合が始まる。
淡々とした試合展開。両軍とも間合いを詰めない。倫子は思わず引っ繰り返りそうになった。
「…ギャンでガンダムと打ち合いしてるよ…んなアホな…」
池田のギャンは逃げ回るように外回りをしながら当たりもしないシールドミサイルを撃っている。相手のガンダム2機はともかくギャンを追い掛け回す。横からさくらのガンダムがビームライフルを撃って牽制しているが相手はほぼ無視している。時折ビームライフルがお互いに掠り合う程度の、退屈な試合展開だった。段々と池田と相手の距離が詰まっていく。
「このまま部長がやられて終わるのかしら?…あっ!?」
池田が動いた。突如としてガンダム2機の方に突っ込んでいく。ガンダムがギャンにビームライフルを撃つ。空中ステップでそれをかわすギャン。さらにその相手の隙にさくらがビームライフルを撃ち込む。四人が球場跡地の中に集まる。一気に緊迫する展開にギャラリーがどよめく。
相手のガンダムが両方ともギャンを狙う。高く飛びあがるギャン。しかし打ち落とされて落下する。しかしそのビームライフルを撃った隙にさくらがガンダムを後ろからビームサーベルで切り付ける。ニ連撃で瀕死のガンダム。もう片方のガンダムがさくらにビームライフルを撃つ。さくらのガンダムもいっぱいいっぱいだ。
しかし、その刹那に起き上がったギャンがショートジャンプで横からガンダムに空中切りを決める。そして着地するとそのままステップ格闘でガンダムを落とす。そしてさくらとステップでの逃げ合いを演じているガンダムにもすばやく近付くと切りつけて落とした。あっというまの早業に、会場が沸く。
「こ、これは…」
「ガンダムのビームライフルで削って、ギャンの強力な格闘で一気に落とす。見事なチームワークだな…」
「どうでしたか、倫子?」
隣にさくらが立っていた。満面の笑み。正直自分より上手い。
「い、いや…さくら、ゲームなんか出来たの?」
「普段はやりませんけど、テレビゲームは日本人の嗜みですから」
「…はあ」
「フランスにいた頃は、お茶やお花、空手に柔道、それにゲームを学んでおりましたので…」
「……」
そしてあっという間に決勝戦。倫子・佐藤組と池田ブラザーズの対戦になった。倫子のガンダムを佐藤のガンタンクが援護するのに対し、池田とさくらは見事なコンビネーションで相手を葬り去っていた。
「負けませんよっ!」
席に着く前に池田に声をかける。すると池田はふっと鼻で笑って答えずに席に着く。
「く、くそぉぉぉぉ! 見てなさいよ!」
ステージはソロモン宙域になった。倫子は思わず唸る。
「宇宙ステージか…360度からギャンが来るから、かえって地上より嫌なのよね…」
「お前はともかくギャンに攻め込め。さくらはオレ様が足止めをする。ギャンが2度落ちるか、お前が2度落ちるか、どちらかだぞっ!?」
「はいっ! やりますよっ!」
キャラ選択が終わる。そして作戦説明に。そこで倫子は引っ繰り返った。
「が、ガンダム!? 2人ともガンダムかよっ!?」
「落ち付けっ! そんな付け焼き刃な相手に慌てるなっ!」
「そ、そうよ、いきなりガンダム使ったところで…来たっ!?」
池田のガンダムがまっすくに突撃してくる。斜め後方からさくらもついてくる。さくらがビームライフルを撃ってくる。ステップで避ける。ガンタンクが池田目掛けてキャノン砲を撃つ。池田は一気に上昇しながら近付いてくる。
「くそっ!」
ビームライフルを撃つが当たらない。その隙に逆にさくらのビームライフルが当たる。
「やばっ!? 2人とも私狙いで…どうしたらいいのっ!?」
「落ち付けっ! ともかく間合いを取るんだっ!」
隣の席の佐藤が叫ぶ。横にブーストして離れようと試みるが、池田は躊躇せずにグングンと近付いてくる。横からはさくらの砲撃。ガンタンクの射撃も一度だけさくらに当たっている。
「ええいっ!」
逃げるのをやめて池田に突っ込む。両機がブーストを全快にしてどんどんと距離を詰めていく。ビームライフルを撃つ。池田が避けて懐に入ってくる。この距離でビームライフルを外せば即ビームサーベルの2段斬りが入る。
「ビームサーベルを構えてる…完全にこっちの隙狙いね…佐藤先輩っ! 部長に球当ててぇっ!?」
「そう上手く行くかぁ!!」
倫子と池田のガンダムがぐるぐると回る。お互いがお互いの隙を狙う。佐藤が叫んだ。
「倫子っ! さくらが来てる!」
「ええっ!?」
さくらまでもが突撃してくる。ビームが横をすり抜ける。池田のガンダムが剣を振りかざして突っ込んでくる。
「ははは、早く助けてっ!!」
「というか逃げやがれっ!
「逃げてますよっ! 逃がしてくれないんですよっ!?」
悲痛な叫びがこだまする。さくらのビームが当たる。よろけたところに池田のガンダムが飛び込んでくる。
「やばっ! これで瀕死に…って、ゲゲッ!?」
ガツンと一撃を食らう。半分あった倫子のガンダムの体力はゼロになって、宇宙の塵となった。
「ガ、ガ、ガ、ガンダムハンマーですってっっっっ!?」
全く当たらない武器。でも当たればガンダム級でも半分は体力を持っていく趣味の武器だ。ある意味ギャンを使うより男らしい。
「そんなバカなっ!? よりによって宇宙でガンダムハンマーだなんてっ!?」
「だから動揺するなっ!? 早く助けに来いっ!!」
そんな佐藤の叫びも空しく、ガンタンクはガンダム2機の集中攻撃にあって撃沈した。そして試合は終わる。律子はガツンとはっきり音が鳴る程に、コントロール台に頭を沈めた。
「…こ、こんな負け方って…酷過ぎる…」
「…おはようございます…」
翌日、傷心の倫子が登校する。部室にはいつもの面々。池田はいつものパソコンの前で返事もせず作業をしていた。
「はあ…PS2が…」
ソファーにすわって一人つぶやく。うつろな目で前にすわる佐藤を見た。彼はPC雑誌を読んでいる。
「…あれ?」
「どうした、倫子?」
「あの…その佐藤先輩の後ろの黒い機体はなんですか?」
「X68Kだろ?」
「いや、だからその68Kと並んで縦置きしてある黒い機体は…」
「昨日池田が獲得したPS2に決まってるだろ? お前の目には3DOに見えるのか?」
「それは縦置き出来ません…って、そういう話じゃなくて!? なんで置きっ放しなんですかっ!?」
「いや、黒いオブジェとかいう映画もあったなあと」
「それは黒いオルフェですっ! って、これを読んでいる読者じゃ知っている人なんかいませんって!」
「まあ、使わねえしな…」
さらっと述べる池田。倫子は両の拳を握り締めて怒りに震えた。
「ひ、人が一生懸命頑張って取ろうとした物を…」
「さて、確かにコッコの言う通り、こんなところに置いておいても仕方あるまい。売っ払ってくるとするか」
「ええっ!? 売っちゃうんですか!?」
「二万円ぐらいにはなるだろう。それともお前が買うか?」
「え?…二万円? 定価の半額…」
「まあ、そんな金持ってないか。では行ってくる…」
「あ、あの…」
池田の白衣の袖をつかむ。池田は振り返ると倫子の膝の上にPS2の箱を放り投げた。
「お買い上げ有難うございます」
「ありがとうございますですぅ!」
「…西村先輩まで言わなくていいです…」
自分の部屋。倫子はPS2でDVDを見ていた。ゲームソフトを買うお金は無いので近くのレンタルビデオ屋でマトリクスを借りてきたのである。
「…なんかしばらく、DVD再生機となりそうな予感が…まあ、いいか。FFもあるし、年末にはバイオ4やメタルギア・ソリッド2も出るっぽいしね…そう言えば、確か今日カプコンの制作発表会があったのよね。バイオ4の発売日決まったのかしら…」
映画も見終わって、倫子はPCの電源を入れた。ネットに繋いでゲーム情報サイトを開いた。
「え、ええ!? こ、これはっ!?」
目にしたものが信じられず、倫子はいくつものサイトをめぐる。しかしどこのサイトも同じことを載せている。つまり事実だということだ。倫子は椅子から引っ繰り返った。
「…バイオハザード、ゲームキューブに移籍って…」
<目次> <用語解説> <配役紹介> <前の回> <次の回>
2002.5.30