16・危ない奴ほど、よく燃える。
<目次> <用語解説> <配役紹介> <前の回> <次の回>
「ああああああああっ!? ゴールポストッ!?」
三都主のフリーキックがバーに弾かれる。テレビの前でガックリとうなだれる倫子。
「貴方、うるさいわよ。少しは落ちついて見れないの?」
「ワールドカップなのに、そんなに冷静に見ている姉さんの方がおかしいんだってば…」
部室のテレビでみんなで観戦していた。自分と上岡だけが大声を上げている。律子や紫緒は興味無さげに眺めていた。えみりは体は動くが声は出していない。西村は笑顔で見ているが、そもそもサッカーを理解できているかどうか怪しい。女性陣に占領されてすわる席が無いので佐藤はゲーセンに行ってしまった。上岡は一番後ろで立って観戦している。
倫子はふと視線をテレビの後ろに移した。池田はPCをいじっている。
「部長は見ないんですか?」
「見てるよ」
そう言ってPCから目を離さない。しかし、液晶はC言語の画面である。すると池田は左手で、棚の上に乗ったノートPCを指差した。SONYのC1だ。
「…テレビチューナーが繋がっている」
「そういうことだ」
USBのユニットが横に繋がっていた。相変わらず贅沢な人だ。そんなこんなで後半戦が始まり、倫子はテレビにかぶりつく。
「早く!! 早く!!…ああ、ホイッスル!?」
日本対トルコ戦が終わる。倫子が頭を抱える。
「ト、トルコに負けるなんて…」
「何を!? トルコを舐めるなっ!」
「さ、佐藤先輩…私、正直言って先輩と絡むの、もう飽きてきたんですけど…」
「飽きた、言うなっっっっっっ! トルコ椅子こそ漢の浪漫っ!」
「…何わけわかんないこと言ってるんですか?」
「知らないのか? ではオレ様が手取り足取り…グフッ」
「というか、トルコ政府の公式な要請で放送禁止用語になったから、それ以上その話を続けるとお前自体が放送禁止になるぞ」
「何を!? PTAが怖くて芸人が務まるかっ! 裸になって国外退去が何するものぞっ!」
池田と佐藤のわけのわからない展開が続く。倫子が口を挟んだ。
「だから! もう、そういうお決まりの展開やめましょうよ〜」
「そんなこと言ってると、お前の存在意義が否定されるぞ? ストーリー展開に全くと言ってもいい程関係無いお前はいなくてもいいということなのか?」
せっかく口喧嘩を止めたというのに、相変わらず池田はつれない。
「そ、そんな酷いこと言わなくったって…マンネリを打開する手は無いんですかっ!?」
「…ふたりエッチか、お前は…」
「なんでまたそっち方面行くんですか!?」
佐藤は倫子が立ち上がって空いたソファーにふんぞり返った。
「いや、あの漫画ってマンネリ打破の為にいろんなことを試すって漫画だからさ…」
「実写版か?」
「いや、池田…その話は触れないでくれ…」
「そういや鋼鉄天使くるみも実写版で…」
「だから触れるなと言っているだろう!? ガンダムだって実写版あるだろう!?」
「いや、あれはハリウッドじゃねえか。…というか、あっちで劇場公開が見送られて日本で土曜の午後4時から一度流されただけと言う、半お蔵入りの代物だからな…大真面目に作った作品よりは、ましだろ」
「なんだと!? 愛・姉妹の実写版のどこが悪い!?」
「ええ!? 話が入れ替わってる!?」
「ウガー!」
御乱心の佐藤に慌てふためく倫子。その肩を池田がつかんだ。睨み付ける佐藤。息を飲む倫子。
「…そういえばシェンムーも映画になったな?」
「グハッ!? 結局2でも完結しなかった…」
「やっぱりお約束ですか…」
吹っ飛んだ佐藤の席に倫子がすわり直す。律子はとっくに帰っていた。
「あの、そろそろ何かゲームやりませんか?」
「何やるんだよ?」
「…そう言われると、確かに最近ゲームが出てないからつらいんですが…」
すると池田がPCの電源を切る。さらに細かい機器の電源を落とし始める。こっちに来るようだ。いつものことだが、何が始まるのか、半分不安、半分ドキドキで倫子はそれを待つ。
「キューブを出せ」
そう言われてゲームキューブをセッティングする。池田はロッカーからCDケースを持ってきた。そしてディスクとメモリーカードをセットする。
「…セガ…アミューズメント・ヴィジョン…スーパーモンキーボールですか?」
「…違うよ」
ポリゴンの選手によるデモ。中田みたいな選手がグラウンドを駆ける。
「こ、これはサッカーゲーム…セガってことは、バーチャストライカーですか?」
「うむ。では早速対戦だ!」
「いえ…やったこと無いんですけど…」
「コントローラーを見ろ。左からB.A.Y。ショートパス、ロングパス、シュート。守備時はBでタックル、キーパーはオート。空中に球がある時はタイミングよくどれかのボタンを押せばヘディングだ。以上」
「そうなんですか?」
チーム選択画面。池田はメモリーカードから日本を呼び出した。
「部長、日本なんですね…」
「何かおかしいか?」
「というか、そもそもサッカーが余り好きじゃないと思いましたけど」
「言っとくが、俺はゲームやるよりもスポーツやる方が好きだ。スポーツは人数集まらないと出来ないから、一人でも出来るゲームをやっているに過ぎんからな」
「まあ、確かにそれが、部長がギャルゲーをやらない理由ですからね」
「他の国だと、正直まったく選手がわからんから日本にしてるだけだな」
「ふぅん…じゃあ、イギリスにしよう…」
「どこだ、その国は…」
「いえ、確かに正式にはイングランドですけど」
「正式にはグリートブリテン及び北部アイルランド連邦王国だけど…」
「あの、えみり。そういう突っ込みは別に…」
「だから違うんだよ! あのアングロサクソン島にはイングランド・スコットランド・ウェールズ、北部アイルランドと4つの国があって、イングランド国王が対外交渉を代表し、さらに国会に政治を委任している、というのが今のイギリスなんだよ! そしてアイルランドは独立派と連邦参加派、さらにカトリックとプロテスタントで激しく内戦しているんだよ!!」
「そ、そんなこと言われたって…」
「IRA、ヘルヤー!!」
「だから、テメエはそうやって放送禁止用語ばかり吐くなっ!!」
「ダッハハ! こんな扱いの悪い小説は打ち切りにしてやるっ!」
復活した佐藤と池田が小競り合う。池田は窓から佐藤を外に放り投げた。
「うおおおおっ!?」
「さて、気を取りなおしてゲームをするか…」
「あの、さらっと流してますけど、ここ、7階のような…」
「さっさと国を決めろ」
「それじゃイギリス…じゃなくて…えっと、イギリス連邦でしたっけ?」
「それはさっきの4つの他にインドとオーストラリアとパキスタンと南アフリカとその他イギリスの植民地だった国ほぼ全てが含まれるがどこなんだ?」
「…もういいです。…あれ、ベッカムいない?」
「そこにいるじゃねえか」
池田はスタメンのMFを指差す。倫子は首を傾げた。
「いや、それはダッカム…ダッカム!?」
「実名なんか使えてたまるか!」
「そ、そんなこと言ったって、日本は実名じゃないですか?」
「トリニダード・トバゴなんかに金払っても意味ねえんだよ!」
「イングランドぐらい実名にしてくれたって…」
かくいう倫子も、ベッカムとオーウェンぐらいしかしらないのだが、ともかく偽名選手でスタメンを組む。そして試合が始まった。
「私初めてやるのに本当に対戦してるわ…そ、そう言えばキーパーの操作方法は?」
「オートだ。取った後のパスだけだよ」
「本当にそれだけですか…って、な、なんですか、そのスタメンは!?」
「ああ、三都主と中村は本当はいないんだけど、ストーリーモードで出てきたオリキャラの名前を勝手に実在に変更したんだよ」
「そ、そうじゃなくて! 3−6−1ってなんですか!?」
フラット3が左から服部・森岡・中田浩。ボランチに稲本と戸田。両サイドに中村と小野が入り、トップ下がダブルで三都主と中田英。そしてトップが高原である。なんか無茶苦茶な布陣にしか見えなかった。
「普通に考えると…中村を入れるために、フォワードを一人削った感じだけど、部長がそんなミーハーなわけないし…」
試合が始まった。イングランドボール。
「うわっ! 取られた!?」
いきなりセンターサークルでタックルをかまされる。そして右サイドにボールが出る。
「ボ、ボールが取れない!? ていうか、右サイドなのに中田と小野と高原と戸田って…ハーフに四人もいるなんて何か間違ってる!」
イングランドは二人か三人。日本が素早くボールを回し、中田がサイドを駆け上がる。そしてセンタリングを上げた。
「高原から出したボールなんだけど…ああ、三都主が!?」
フォワードもボール回しに参加していたのだが、逆サイドの三都主が待ち構えてヘディングシュート。キーパーが弾くが、やはり逆サイドのボランチの稲本が駆け込んでこぼれ球をゴールに押し込む。
「た、たった27秒で先制点!?」
そしてボコボコにやられ、3分ハーフで6点取られた。試合が終わり、倫子がへたれこむ。
「しょ、初心者に酷すぎる…」
「精進が足りねえんだよ」
「というか、なんでそんな無茶苦茶な布陣なんですか?」
「どこがどう無茶苦茶なんだよ」
「だって、そんな守備が薄いのに…」
「…3フラットのどこが守備が薄いんだ?」
「え…だって、4バックより一人少ないし…」
「バカかお前は?」
「な、何がバカなんですか!? 部長だってサッカーは大して知らないでしょ?」
「だからお前はいつまで経っても巨乳しか取り柄が無いお飾りヒロインなんだよ。健、ホワイトボード」
「ほ〜い…ああ、たまにはまともな台詞が欲しい…」
ぶつぶつ言いながら上岡がホワイトボードを持ってくる。白衣を翻しながら、池田がマーカーを握った。
「いいか。4バックと言うのは、四人で守っているなんてことは有り得ない。両サイドの選手は、言っておくがフォワードだ。中盤でボールを回していたら、ざざっと両脇を上がっていくんだよ。つまり、3-5-2でいう両ウィングのMFと同じ役目なんだ。それはつまり、いつも守っているDFは、フォーバックでは基本的に二人しかいないということだ。そう、フォーバックでは8人で攻めるのに対し、フラット3は7人で攻めている。つまり、フラット3の方が防御的な布陣なんだ。しかも、日本の場合は戸田がほとんどDF状態で、さらに両ウイングも攻撃よりも守備を重視している。実質的には中田・稲本・ツートップでしか攻撃してないんだよ」
「そ、そんなんじゃ勝てないんじゃ…」
すると池田は倫子をずばっと指差した。風を切る音がして、思わずびくっとした。
「そう、まさにその通り。トルシエは日本の監督になってフラット3を導入したのは、ワールドカップで勝つためではない。決勝トーナメントに出るため、負けないチームを作ったんだ。つまりは引き分け狙いだ。トーナメントは点を取れるチームを作らなければ勝てないが、グループリーグは総当りの得点制だ。ここでは勝つことよりも、負けないことの方が重要だ。トルシエが監督になった時、日本は開催国で出場が決まっていた。ということは、上位6チームとは当たらないと言うことだ」
「…え?」
「予選グループのチーム分けは完全ランダムではない。出場32カ国を、世界ランキング順に4つにわけてから、くじ引きするんだ。要するにフランス・ブラジル・ドイツ・アルゼンチンみたいな予選グループをなくすためにな。ここで重要なのが、開催国は必ずトップグループに入るということだ。つまり、日本は予選でブラジルやアルゼンチンに当たることは絶対にない。だから、負けないチームを作れば決勝トーナメントには必ず上がれる。そこから先は多分勝てないがな。だから、セルジオ越後やラモスがトルシエを非難していたのは、決勝トーナメント出場を目標とする守るチームではなく、ワールトカップで優勝するための攻めるチームを作れと非難していたんだ」
「……なんだか、頭の中が凄いことになっているんですが…」
「だから、中村が代表落ちしたのは、両サイドのMFは守備が出来なければ駄目だからだ。逆に言えば、戸田や明神はフラット3だからレギュラーなんであって、もし4バックになったら代表にさえ入らんかもしれんな。中田がいなければ中村も中央でレギュラーだろうがな…。で、俺はこのゲームをやるに当たって日本チームを見た時、FWがクソで、MFの方に優秀な選手が多いのと、チームに両ウィングバックがいない…つまり、4バックにしようにもDFの人材がフラット3用しかいないから、FWを減らしたわけだ。ま、日本はMFの選手が多いから、MFを一番多く出来る布陣にしている、ということだな。で、俺の3-6-1にまだ文句があるか?」
「…いえ、御座いません…」
「わかりゃいいんだ、わかりゃ」
がっくりとうなだれる。倫子。池田がディスクをケースにしまいながらつぶやいた。
「で、再戦すんの?」
「いや、やっても勝てないし…」
すると池田はケースを投げた。下手投げではあったが、不意の行動に倫子はノーガードで、胸にガツンと当たった。膝に落ちてきたところを慌てて受け止める。
「い、痛いですよ!」
「そんなでっかいモンがついているなら平気だろ?」
「……」
えみりが物凄い形相で見つめる。池田は立ち上がった。
「まあ、俺のチームは完成しているから、再戦はいつでもいいよ」
そう言ってPCの前に戻る。倫子は右手の握り拳を奮わせる。
「み、見てなさい!! 早速シナリオモードを…あっ…」
「うふふ、ぴちゃぴちゃですぅ…」
西村がどうぶつの森+を始めていた。梅雨という季節がら、ゲーム内も毎日のように雨だった。ちなみに倫子は、ファミコンをあらかた集めてしまったので、実はもうやっていなかったりする。
「あ、あの…まりあ先輩?」
「はい? なんですぅ?」
「次、わたし順番待ちでお願いします…」
「……」
「いや、急ぎではないですけど、待っているので…」
「ヤな感じぃ」
「ええっ!?」
冷酷なジト目で倫子は見つめられる。西村はモニタの方に向き直った。
「そそ、そんな怒らなくても…」
「はい? 何がですぅ?」
「…え?」
再び振り返った西村はまんまる笑顔である。余りのギャップに倫子は混乱する。
「ええ?」
「知らないんですかぁ? 困ったことがあった時は、ああ言うんですよ?」
「…部長! またまりあ先輩に変な事を教えて!」
「何がだ。保母をやっている作者の妹は園児に静かにしなさいと注意したらそう言われたんだ。誤った使い方じゃない」
「…それはそもそもが誤まってるじゃないですか…」
「…なんか、閑散としてるなあ…」
倫子はゲーセンに来た。確かゲーセンにもあった気がしたからだ。最近新しいゲームが無いので仕方ないといえばそれまでだが。ギルティギア・イグゼクスも散々佐藤と対戦したのでさすがに飽きてきた。みんなで来れば仕方無しにガンダムをやる程度だ。倫子は2階に上がる。
「確か奥のスポーツコーナーに…あ、あった」
倫子は小走りに近付く。そして画面を見た。紛れも無くバーチャストライカーだ。しかし、倫子の目が点になる。
「…へぼっ! な、なんじゃこりゃあ!?」
「お前は松田優作か…」
「佐藤先輩、三度復活ですね…」
「これはナオミ基盤だからな。つまりドキャだ。ゲームキューブの方が綺麗でも仕方あるまい。今作っている新作はトライフォースだから、キューブ並の画質になると思うが」
「で、どうしたんですか? 先輩、スポーツゲームなんかやらないんじゃ?」
「ダハハ! お前とやるならどんなゲームでもギャルゲーさ!」
「ハイハイ…」
倫子はイングランドを選ぶ。佐藤は韓国を選んだ。
「虎だ! お前はアジアの虎になるのだ!」
「…いろんなのがぐっちゃぐちゃになっていませんか、それ?」
「虎美ちゃ〜ん!!」
「…死ね」
試合が始まる。倫子ボールだった。中盤でパスを回す。そこに韓国の選手が迫る。
ピピ〜!!
「ななな!? 後ろからスラィディング!?」
審判が駆け寄ってくる。当然レッドカードで佐藤のFWは退場になった。
「開始13秒で…」
「ダハハ! 覚悟しやがれ!」
「そういうゲームじゃないですってぇぇぇ!」
ガツガツとスラィディングをかます佐藤。レッドは出なかったが、各選手の名前にイエローカードが付きまくる。正面からのタックルで吹っ飛ばされることも多く、ボールこそ取られないものの、倫子はなかなか攻め切れない。
「くそっ〜〜〜!」
佐藤のスラィディングでボールがこぼれる。近くの韓国選手がロングパスで蹴り出す。倫子のサイドにボールが転がった。DFがボールを拾う。
「このままだとPK戦に…ああっ!?」
オーバーラップした佐藤のFWが正面からスラィディングをブチかます。MFがそのこぼれ球を拾った。
「やっば!? 一対一?」
キーパーはオートだから見守るしかない。DFが佐藤のキャラの周りに集まってくる。佐藤は一直線にドリブルしていた。そしてセンターサークルの脇までやってくる。
ズバッ! 佐藤の操るMFの鋭いシュートが、イングランドのゴールネットを揺らした。
「ええ!?」
「どうにもこうにも絶好調!!」
「中畑清かよっ!?」
「…そういう池田みたいな突っ込みはやめれ…」
結局その一点が効いて、佐藤にまで負けてしまった。
「もういいです! 連邦VSジオンでもやって帰ります!」
倫子は端にあるガンダムコーナーに歩いていった。珍しく人だかりが出来ている。
「強い人でもいるのかな…あ…」
「あら、倫子さん。お一人ですか?」
さくらだった。一人なのに連勝しているようである。
「よかったら協力プレイします?」
そして4戦目、倫子が足を引っ張って負けた。部室に帰った倫子はソファーに頭から倒れ子だ。えみりの目が丸くなる。
「…どうしたの?」
「もうやだ、この部活…ゲーム強い人ばっかで、ちっとも勝てなくて…私だって普通よりは上手いはずなのに…」
「それはあれね。頭の良い人が進学校に入ったらトップになれないから挫折するようなものかしら?」
「…そんなふうに言わなくても…」
台所から池田が出てくる。横目で倫子を見た。
「何をしているんだ、お前は?」
「いや、別に…」
「ゲームで勝てないから落ちこんでいるんですって」
えみりが珍しく池田に振る。池田は鼻で笑いながらPCの前にすわった。
「高校野球で4番でエースだった奴が、プロに入って二軍の補欠のまま腐って落ちこぼれていくのと一緒だな」
「…二人揃って、人を慰めると言う考えは浮かばないのかしら…」
「ふう、ようやくお湯が沸きましたよ…あれ?」
コーヒーカップを持って上岡が戻ってくる。倫子を見て目を丸くした。どうやらここにすわっていたようだ。
「ああ、すいません…」
倫子はきちんとすわる。しかし、女性の隣にすわるのが気恥ずかしいのか、上岡は立ったままコーヒーを飲み始めた。
「…上岡先輩は、落ちこんだりしないんですか?」
「いやいや、それはもうしょっちゅうですよ、そんなの…」
「ふぅん…何に落ち込むんですか?」
すると上岡は横を向いてニヤリと笑った。
「僕みたいな何の取り柄も無い一般人が、この先の人生、どう生きていこうかとかですね」
「…ひ、久々に上岡先輩オチですかっ!?」
「いいじゃねえか。マンネリが嫌だったんだろ?」
「…部長、そういう問題じゃないんですけど…」
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2003.1.13